第53回ICTE情報教育セミナー in 早稲田
講演は黒上晴夫教授(関西大学)の「高等学校における情報教育の役割」、ポスターセッション後のパネルディスカッションは「教科情報のデジタル教科書・教材を考える」。大学の先生方からは新鮮な情報を得ることができた。
この間がポスターセッションの時間帯。一緒に「高校における情報デザイン」を研究してきた磯崎先生、「Squakとアルゴロジック」を研究してきた千葉県の谷川先生の発表の様子。
私の発表は、ポスターセッションというより、机を借りてのワークショップ。
「データのばらつきを調べる」というテーマで、上月情報教育研究助成を受けて一緒に教材開発をしてきた県立海洋科学高校の若林先生の実践教材を応用させていただいた結果を報告した。
■授業実践を行う前の生徒の状況
本校では、5月から表計算ソフトの基本的な使用方法について、50分5コマをかけて学習してきた。関数「最大値」「最小値」「合計」「平均」「条件分岐」「順位づけ」「条件つきカウント」と「相対番地」「絶対番地」の概念、「ソート」と「グラフ化」の技術を扱った。生徒はこれらを概ね理解しているが、自ら表計算ソフトを活用する題材を持っていない。
■授業展開(10㎝はどれくらい?)
- はがき(100㎜×148㎜)を配布する。はがきの短辺がちょうど10㎝であること教え、この長さを親指と人差し指を開いて示させる。長さを覚えたら、はがきを回収する。
- 紙テープを配り、目分量で10㎝の長さに切る。(ひとり10本)
- ものさしを配布し、切った紙テープの長さを1/10㎝の精度で測定して記録する。
- 6名のグループで、互いの測定値を交換して記録する。
- 個人のデータと、グループのデータを表計算ソフトに入力する。
- 個人データを最小値と最大値の間で1/10㎝刻みにカウントし、度数分布のグラフを作る。
【以上で1時間。個人データを回収し、教員がクラス全員のデータをまとめておく。】 - グループのデータを、同様にカウントし、度数分布のグラフを作る。
- 教員がまとめたクラス全員のデータから、同様にカウントし、度数分布のグラフを作る。
- 個人、グループ、クラス全員のデータそれぞれの度数分布を比較し、考察する。
※「情報B」のクラスでは、ストップウォッチで感覚の10秒を測定する。前述の紙テープの切り出しと同様に、個人、グループ、クラス全員のデータの度数分布を比較し、さらに、クラス毎の標準偏差を求めてバラツキの度合を比較してみた。
■ポスターの掲示
まずは、三宅なほみ先生の実践をヒントに若林先生が高校の授業で実施し、私が2パターンで実施たことの説明のポスター(PDF)。正規分布と標準偏差の解説に繋がり、新しい教育課程の数学Iに追加された「データの分布」に直結することを示した。
情報Aのクラスで実施した、テープカットの実習(10㎝はどれくらい?)の作業と度数分布図(PDF)。
情報Bのクラスで実施した、ストップウォッチの実習(10秒はどれくらい)の作業と度数分布図、教材としての発展性(PDF)。
■データ分析の可能性
情報Bで行ったストップウォッチの実習は、5回連続で測定することを3ラウンド繰り返した。生徒には、分布図作成以外にどのような分析をしたいか発問したところ、
・ラウンド毎のバラツキ(偏差)に、減少する傾向があるかどうか調べたい。
・例えば2連続で10秒0が出るようになるには、何回ぐらい測ればよいか調べたい。
などの意見が得られた。次回実施する際には、その問題解決のためにはどのような実験を行えばよいか、生徒と教員が一緒に考える時間を取ろうと考えている。バラツキというどこにでもある題材なので、適切な方針を立てれば課題研究に発展することも可能であろう。
■教材としての妥当性と発展性
生徒は、自分の目分量の誤差、自分と他者のバラツキとの違いに興味を持って度数分布図の作成に意欲的に取り組み、その過程でデータ量が増えても処理・加工の手間は変わらないことにも気づいた。実習後に紹介した正規分布と偏差値の話にも興味を持った。
どのクラスでも、データの数が増えるにしたがって、正規分布に近い分布が得られたが、最大値・最小値と標準偏差を比べるとクラスによるバラツキの度合いが異なった。長さを指導する教員の説明によって差が出た可能性がある。しかし、普通教科情報の授業教材としてはこの厳密さまで考慮しなくても良いと考え、教材として妥当なものと判断する。
実は3色のテープを用意して実習を行った。つまり、(白と黒の碁石の直径が異なるような)色の特性によって、平均値とバラツキに影響が出るかという調査研究を個人的に考えていた。残念ながら、今回は色の違いによる顕著な特徴は分からなかったが、どのような方法をとれば検証することができるか、生徒と共に考えることも興味深い題材である。
多くの方にアレンジして実践していただき、成果を共有できることを期待している。
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